私たちにヤバいお仕事案件の見分け方を教えてください!【弁護士直伝!】

やばいお仕事案件

「お仕事が決まった~!」と喜んでいたら、まさかのヤバい案件だった……。こんな怖い話を仲間から聞いたことのあるフリーランスもいるのではないでしょうか。

実は案件そのものが法律的にアウトだった、取引先が反社の関係者だった……等々、ひとりで営業活動を行うフリーランスには危険がいっぱいです。

一歩間違えば命取り!? 落とし穴がいっぱいの危険地帯で、ヤバい案件を避けて生きるにはどうしたらいいのか。クラウドソーシングを利用するときの注意ポイントからヤバい案件を引き当ててしまったときの対処法まで、おなじみ河野弁護士にたっぷり聞いてきました!

河野 冬樹(かわの ふゆき)
河野 冬樹(かわの ふゆき)

法律事務所アルシエン 弁護士。主に個人クリエイター向けにリーガルサービスを提供している。ミステリをこよなく愛する活字中毒者。(Twitter:@kawano_lawyer

聞き手:ぽな
聞き手:ぽな

こたつとお布団、コーヒーをこよなく愛するフリーライター。法学部出身のはずが、なぜか卒論のテーマは村上春樹であった。やれやれ。(Twitter:@ponapona_levi

実はけっこうある!? ヤバい案件

ぽな:
先生、見て見て! こんな怪しいサービス見つけちゃいました!!

怪し怪しいサービス例いサービス例

河野:
おお、これは……! 清々しいまでの非弁行為(※)ですね。

※ 非弁行為
示談交渉や法律相談など、弁護士でなくてはできない行為を無資格者が行うこと。「非弁活動」とも言う。絶対にやってはいけない

ぽな:
しかも代表者は他人のアップした画像を無断使用しているみたいですし、公式ホームページに書いてある内容も見るからにうさんくさい……というツッコミどころ満載のサービスでした!

でも、このホームページ、けっこう立派でお金かかっていそうな雰囲気があるんですよね……。この制作案件を受けちゃったフリーランスがいるかと思うと、大丈夫なのかなとなんか心配になりまして。

河野:
うん、誰かが受けているんでしょうねえ……。名前が出ていないから、まだいいっちゃいいかもしれないけど。

ぽな:
なんか、こういうヤバい案件ってありますよね……。ほかにも私、クラウドソーシングでヤ◯金関係のライティング案件を見た、という人の話も聞いたことがあります!

河野:
ああ、あるでしょうね。

ぽな:
実際、受けちゃいけない案件ってあると思うんです。CM打って大々的にやっているような企業さんだって、実は……ということもあるじゃないですか。ただ、いざトラブルに巻き込まれてしまうと、正直知らなかったじゃ済まされない場合もありますよね……。

河野:
うん。まあ危険そうな案件は基本的に受けるべきじゃないですよね。

クラウドソーシングは相手を見極めて

ぽな:
ただ、そうは言っても、実際ヤバい案件を見分けるのって容易じゃないですよ。ちょっと見ただけじゃわからないじゃないですか……。どうすればいいんですか? 特にクラウドソーシングとか、正直誰が発注しているかわかんないですし……。

河野:
あのね、基本的にクラウドソーシング案件に載ってる案件だからといって、必ずしも信用しちゃいけないっていうのが全てなんですよ。クラウドソーシングはあくまでも「場所を提供しているだけ」なので。

ぽな:
めちゃくちゃ切り込みますね先生……!

河野:
基本的にはクラウドソーシング側で何か審査をしているわけじゃないし、違法な案件を仲介したからといって責任が問われるわけでもない。裏を返せば、別にクラウドソーシング案件だからといって必ずしも案件の適法性が確保されているわけじゃないんです。

ぽな:
そ、そうなんですね……!

河野:
もちろんクラウドソーシング運営側も自浄努力をしているでしょうが、念のために掲載企業については自分でも調べておいたほうがいいでしょうね。

ぽな:
大手クラウドソーシングでは発注者が個人のこともあるし、そうすると、もう発注者の情報が追えないですよね。そういう案件を見ていると、「これ、大丈夫かなあ」と思うことはしばしばあります。

河野:
まず、そもそも論で言うとですよ、相手の顔が見えないからこそ違法な案件を発注しやすい、というのはありますよね。相手の身元がわからないから、問い合わせをしても結局何者なのかすらわからず、トラブルになったときもお手上げになってしまうという。

ヤバそうな案件は登記をチェック!

ぽな:
もちろんヤバい案件は、クラウドソーシングに限らないわけで。

たとえば人から頼まれた仕事でも、一見問題なさそうに見えて実はヤバい、というパターンもあると思うんです。ヤバい案件の特徴ってどんなものがあるんでしょうか?

河野:
まず一番ヤバいのは、発注者側がウソをついているパターンですよ。これは論外ですが、以前に話した「ヤバい人」の見極め方を考えるときと基本的に一緒です。

河野:
発注者側自身が違法行為をやっていて、しかも自覚がある場合というのはですね、当然のことながら「違法だけど受けてくれ」という形で案件を打診することはフツーはしませんよね。違法な案件ではあることはバレたくない、と考える人が多いんじゃないでしょうか。

ぽな:
SNS上に出回る「闇バイト」と同じパターンですねえ。

河野:
そうそう、具体的なことを言っちゃうと、ああいう人たちって「誰かに相談されたら、ヤバいことになる」という自覚は持っているんですよねぇ。

だから、早々に「守秘義務契約を結んでね」と言ってくると思います。

ぽな:
あああ、口止め工作が……!

河野:
いや、もちろん仕事の性質上、早い段階で守秘義務契約が必要になることはありますよ。でも、案件内容を開示する段階で、とか「いや本来そこまではいらんだろう」というレベルで守秘義務契約の締結を執拗に迫ってくる場合。これはもう、かなり怪しい。

ぽな:
言っちゃいけない案件だから、早い段階で話が外に漏れないようにしておくんですね。

河野:
そのとおりです。あとは、そもそも何をやろうとしているのか教えてくれないパターンもあります。「仕事の背景事情とかどうでもいいので、とにかく言ったとおりにやってください」と。

ぽな:
つっこまれるとすぐにボロが出るから、つっこむなと牽制するという……。

河野:
当然そうなりますよね。詳しく説明せずにぼかしておけば、バレるリスクが少なくなりますから。だからね、「ふわっとした話」しかしない人や、とにかく口止めさせようとする人には要注意!

ぽな:
ふわっとキラキラ発言をする人にロクなやつはいない、ですね!

河野:
あと、法人が発注元の場合は、会社の登記をチェックするといろんなことがわかりますよ。設立年数とか、会社の代表者がどう変遷しているかとか。株式会社なのに取締役が10年以上変わっていない(※)企業には注意が必要かもしれません。

※株式会社の場合、たとえ非上場企業でも取締役の任期は最長10年と会社法で規定されており、そのまま留任する場合も登記が必要。それなのに登記がずーっと変わっていないということは……? なお、会社の登記は登記情報提供サービスを利用すれば、Webで簡単に取得できる(ただし有料)。

ぽな:
なるほど……。会社のホームページやGoogle検索で調べるのはどうでしょうか?

河野:
その方法もありますね。ホームページを見て怪しいことをやってそうな企業は、危険性が高いといえます。あと、本当にヤバいトラブルが起きると、消費者庁のホームページなどで情報が出ていることもあります。

ただし、本当にタチが悪いところだと、ネガティブワードでの検索を避けるために、社名を変えていることもあるから気をつけましょう。

ぽな:
その痕跡は、登記をみればわかるんでしょうか……?

河野:
わかりますよ! 登記で判明した古い社名で検索してみるといいでしょう。

ぽな:
おおおお、登記つよい。なんでもわかるじゃないですか。登記最強……!

投資、税金、法律、美容・健康がらみの案件は気をつけて!

ぽな:
ふわっとした話に気をつけろ、という先ほどのお話ですが、でも実際のところどうなんでしょう。

詳しい人なら「ヤバい」ってすぐにわかるかもしれませんが、そうじゃない人はふわっとした話でも信じてしまうこともあると思うんです。

河野:
金融・投資関係の詐欺とかがいい例かもしれませんね。あれも詳しければ「そんなうまい話はありえない」ってすぐにわかりますから。

ぽな:
あと、直接フリーランスに関わってくるところでは、ちょっとマニアックですけど士業関係の規制がありますよね。「無資格者はやってはいけない」という決まりが。先ほどの非弁行為もそうですが、こういうルールをわかっていないフリーランスは多いと思います。

河野:
というか、そもそもなんでルールがあるのかわからない、というレベルの人が大半だと思います。「なんでやってはいけないのか」と本気で思っている人もいますから、難しい。

ぽな:
たまに無資格のフリーランスで、契約書の雛形を正々堂々と売っている人とかいますが……。あれはいいんでしょうか?

河野:
契約書の雛形を売るだけなら、本を売るのと理屈は一緒なので一応ギリギリセーフといえるかもしれません。もちろん信頼性の問題はありますけど。ただ、個別に相談に乗ってしまうとアウトでしょうね。

クリエイターさんだと「自分の作った作品を売るのが当たり前」という感覚があるので、「作品として売っていいもの」と「売ってはいけないもの」の境目の感覚がしっくり来ない方もいるかもしれませんが……。

ぽな:
プラットフォームによっては、「アイコン描きます」と同じノリで、こうした「契約書作るのお手伝いします」みたいなサービスを出品できてしまいますからね。自分の作品やサービスを販売して何が悪いの?って感覚に陥る方は意外と多いかもしれません。

河野:
極端な話をすると、法律や税金を題材に作品を作って不特定多数に対して一般論を語るのはOKだけど、個別に相談に乗ってしまったらアウト。

それを考えると今のSNSの仕組みも微妙ですよね……。不特定多数に発信しているのか、個人に向けて発信しているのか境目が曖昧になっているところがある。Twitterのリプライとかだと、確かに誰でも見られるけど、形式としては個別に語りかける形になっていますから。

ぽな:
うーん、難しい……。しかも最近だと収益化もできますからね。

河野:
たとえば「Twitterのチケット制スペースの中で個別に質問を受け付ける」みたいな形になってくると、正直きわどくなってくると思います。

ぽな:
そう考えると、案件を引き受けるときだけではなく、自分自身でサービスを設計したり、イベントを企画したりするときも気をつけなければいけないということになりそうですね。特に士業周りについては……。

河野:
そうですね。基本的に気をつけなければならないジャンルの案件というのはいくつかあります。具体的には、法律、税金、投資、美容・健康。このあたりのジャンルはだいたい要注意ですかね。

法律と税金は士業の関係。また投資はどうしてもジャンルそのものが詐欺の温床になりやすいところがあるので。そして、美容・健康は、薬機法の関係でよく問題になります。

ぽな:
法律が関わってくるジャンルは気をつけておかないといけませんね……。

河野:
気をつけなければいけないのが、クライアントさんがいけないことをやっていたことに気づいた場合です。「こうした方がいいですよ」とアドバイスをすると、それが非弁行為になってしまうリスクがある。

ぽな:
あっ……!

河野:
もちろん法律を無視しているクライアントさんがいたとして、そのまま漫然とその案件を続けるのもリスクではあるんです。だからといって、踏み込んで法的なアドバイスをしたり、「適法性を確保します」と提案するところまで踏み込んじゃったりすると、それがまたヤバいというジレンマがあります。

だから、これは弁護士が言っていいことなのかわからないけれど、「自分は関係ない」というスタンスを貫くのもフリーランスの自衛策としてはひとつの正解だと思うんです。

ぽな:
そうですね……。もしかしたら、「表に自分の名前が出ないようにして、制作実績にも残さず、著作権も譲渡して案件が終わったらサヨウナラ」というやり方も無難というケースもあるのかもしれません。さすがにヤバい案件だからって、制作を放り投げて逃げるわけにもいきませんからね……。

河野:
それは当然ですね。というより、バックれることだけはやっちゃダメです!

手持ちの案件にヤバそうなものが……このままバックれてもいいですか?

河野:
あのね、ヤバい案件を受けてしまったときに、一番やってはいけないのが、バックれて逃げることなんですよ。

ぽな:
えっ、ダメなんですね……!?

河野:
一度引き受けたからには、こちらにも仕事を引き受けた側としての責任が発生します。だからこそ無断でバックレるのは絶対ダメ。まずは契約書の内容を確認して、契約解除に使えそうな条項があるかどうかを確認することです。

文言の書き方にもよりますけど、たとえば反社や詐欺グループが取引先だった場合は暴排条項が使えることもあります。また、案件の違法性が高くて依頼を遂行すること自体が法に触れる場合は、「公序良俗違反だから」という理由で履行を拒否することもできますね。ただ、ひとつ強調しておきたいのは、「違法な案件だから黙って逃げればいい」「契約として無効だろうからバックれればいい」という単純な話ではないということです。

ぽな:
契約の問題と、案件の違法性・やばさの問題ってまったく別レベルの問題ですものね。

河野:
そうそう。いったん受けている以上、受けた側にも契約上の責任はありますからね。ただ、このようにしてしまうと今度は「進むも地獄、退くも地獄」という状態になってしまうので、別に手段を考える必要があります。

まず最初にやるべきなのは発注者に直接確認してみることですよ。もしかしたらとんでもない誤解があるかもしれませんから。とにかく発注者本人の言い分も聞かずに、違法と決めつけて放り投げるのはまずい。

ぽな:
でも、確認したらしたで、当然のごとく「適法です」「問題ないです」という返答が来るのでは……?

河野:
うん。だから、弁護士に相談するというのが次の一手になりますね。あ、自分の宣伝で言っているわけではないですよ! 友人知人に相談すると守秘義務違反に問われる可能性が出てきてしまうけれど、弁護士は守秘義務を負っていますから。それゆえ、たとえクライアントさんと秘密保持契約をしていたとしても、弁護士に法律相談をするのは契約違反にはならないというのが一般的解釈です。

で、弁護士と相談して「いよいよヤバいぞ」ということになったら、先方に「適法性が確認できないかぎり、業務を進めることができません」とやんわり釘を刺しておきましょう。

ぽな:
いきなり「解除する」と言うと角が立っちゃうから、ペンディングさせるイメージでしょうか?

河野:
そうですね。しつこく確認すると、相手の方から「お前はもういい!」と言ってくるでしょう。マイルドな方法ではあるけれど、無難な対応ではあります。もちろん、中には緊急に降りなきゃいけないような差し迫ったケースもあるんですけどね。

ぽな:
必ずしも、「すぐに契約を解除しなきゃ」というわけではないということですね。たしかに最悪、自分の名前が表に出なければそこまで実害はないわけで。

河野:
ですね。あと、本当はあまりいいことではないのかもしれませんが、さっきも言った通り「いっそ目をつぶってしまう」というのも選択肢としてはあり得ると思います。というのも、案件の適法・違法の見極めって微妙なところがあって、「違法の疑いがあるから」ぐらいの理由で案件を放り投げるのが本当にいいことなのか、慎重に考えるべきだと思うんですよ。

ぽな:
実際、規制のキワやグレーゾーンを攻めるビジネスもありますよね。もちろんスキームの設計に弁護士さんが関わるなどして、適法ということにはなっているんでしょうけど。

河野:
正直、適法・違法どちらの筋もなりうるビジネスもあって、「裁判所が違法と判断するまでは適法」としか言いようがないケースもあるっちゃあるんです。弁護士は違法の疑いがあっても「適法だ」と主張する、適法になるようにがんばるのが仕事みたいなところがありますけど、一般のフリーランスさんはそうじゃないですから。

最低限、自分のところに火の粉がかかってこないようにリスクヘッジだけはする、というのも生存戦略としては正しいと思います。

ぽな:
自分だけが責任をとらされないように気をつけつつ、柔軟に立ち回るということですね。

河野:
そうそう。実際、第三者の著作権を侵害するような依頼をしてきて、責任はクリエイターに負わせるみたいなケースもありますからね……。

ぽな:
契約書をよく見ないと大変なことになるパターンですね……。

あいまいな世界をしたたかに生きるということ

今回のお話を伺った率直な感想は、「やれやれ、一筋縄ではいかないなあ」というものでした。私は法律を現在進行形で学んでいることもあり、一般的なフリーランスの方に比べると多少は法律の知識がある方だと思います。

でも、試験問題と違って、リアルの世界はきれいごとでは済まされないところがある。リスクを全力で避けていったとしても、微妙な案件を引き当ててしまう可能性はあります。

ときに、あれと思うことがあったとしても、あえて清濁併せ呑んで生きていく胆力も必要なのかな、と感じました。

(執筆:ぽな 編集:少年B 協力:河野冬樹弁護士 イラスト:はこしろ)

【連載】フリーランスのための白熱法律教室

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