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創作活動を行なっているクリエイターにとって、著作権侵害は身近な問題です。
SNS上で「盗作された」「自分の描いたイラストが勝手にグッズ化されて売られている」などといった被害報告を目にすることもありますよね。
もし自分が著作権侵害トラブルに遭ったら、いったいどんな対応をすればいいんでしょうか。
そこで今回は、毎度おなじみ河野冬樹先生に、著作権侵害トラブルに遭ったときにやるべきこと・やってはいけないことについて、かなりディープなところまで訊いてきちゃいました!
法律事務所アルシエン 弁護士。主に個人クリエイター向けにリーガルサービスを提供している。ミステリをこよなく愛する活字中毒者。(Twitter:@kawano_lawyer)
こたつとお布団、コーヒーをこよなく愛するフリーライター。法学部出身のはずが、なぜか卒論のテーマは村上春樹であった。やれやれ。(Twitter:@ponapona_levi)
目次
ぽな:
改めて考えてみたんですが、著作権侵害って難しいですよね。具体的に何をされたら、「侵害された!」といえるんでしょうか。著作権侵害にあたらない行為について「著作権侵害だ! パクられた!」と騒いでしまうと、それはそれでリスクがありますよね。
たとえば、ある作品と別の作品が似ていたとして、著作権法的に「“許される”似てる」と「”許されない”似てる」があるわけですよね。考えれば考えるほど、ぐちゃぐちゃしてきてしまって……。
河野:
はははは、なるほど。これについては著作権の成り立ちから考えてみると意外にわかりやすいですよ。著作権という言葉自体はみんな聞いたことがあると思います。
たとえば、ビデオを見ていると「本作品は著作権法によって保護されております」とか、「転載・複製は著作権法によって禁止されております」といったテロップが出てきますよね。
ぽな:
はい、絶対入ってますね。
河野:
だから、なんとなく「コピーはダメですよ」といえる権利が著作権だ、というイメージを持っていらっしゃる方も多いと思うんです。著作権は英語にすると「copyright」です。つまり作品をコピーする権利=著作権というのが、そもそものスタート地点なんですよね。
ぽな:
作品を複製する、というのがひとつのキーワードなんですね。
河野:
そうです。でも、たとえば中世の活版印刷しかないような時代では、著作権を侵害する方法なんてほとんどなかったんですよね。問題になるのはせいぜい作品のコピーなわけですけど、仮に無断コピーしようと思っても、じゃあどうやるの?という話になってきます。
ぽな:
えーと、ひたすら人力で写本するとか……?
河野:
逆に、その方が費用がかかりますよ(笑)。そこから派生して、たとえば楽譜を無断使用して演奏するだとか「作品を複製するのと実質同じでしょ」という行為も取り締まるようになっていきました。
というわけで、技術がまだそれほど発展していない時代では、単に作品の無断コピーだけを取り締まればよかったんですよ。
ぽな:
作者以外の人が勝手に複製しちゃだめだと。
河野:
はい。かつて複製というのは複製する側にもそれなりの技術と労力が必要だった。ところが、インターネットやパソコンの登場によって、ワンクリックでコピーできるようになってしまったわけです。
誰もが簡単に著作権を侵害できてしまう状況が生まれて、どんどん法律が対応していったという背景があります。
ぽな:
作品そのものをコピーしたり、勝手に使ったりするのはダメだということはわかりました。でも、たとえばコピーとまではいえないけど、ひどく似ている作品、いわゆる「パクリ」についてはどうでしょうか。小説作品をマンガにしたり、誰かの作品をベースに創作したりするのもそうですけど……。
河野:
それは「翻案権」と言われる話ですね。これも先ほどの出発点から考えるのがポイントになります。著作権法による規制は、無断コピーを規制するというものなんです。そこから派生して、コピーとまでは言えないけど、元ネタと似すぎていて実質的にコピーと同じだろう、というものも取り締まるようになってきた。
だから、多少表現を変えているかもしれないけど、「内容的にほぼ同じでしょ」レベルで似ている場合は問題になりえます。
ぽな:
「ほぼ同じ」とか「違うな」とかはどうやって判断するんですか?
河野:
具体的な表現部分が似ているかどうかという点ですね。逆に、具体的な表現以外の部分、アイディアについては著作権法の保護が及ばないところなのでいくら真似してもいいんです。
ぽな:
ええっと、特定の小説の具体的な文章表現を真似するのはダメだけど、「転生したら乙女ゲームの悪役令嬢になっていた」とか「異世界に転生してチート能力で無双する」みたいな設定やアイディアを真似るのは大丈夫ということでしょうか。
河野:
そうなります。あとはミステリの世界なんかもそうですね。
ぽな:
ああ、先行作品があって、それを他の作家が洗練させて……という形でジャンル自体が発展してきていますもんね。そもそもが『モルグ街の殺人』や『シャーロック・ホームズ』がミステリの源流にあって、それを後世の作家さんたちがブラッシュアップして現代に至っている。
絵もそうですよね。誰かの作品を模写したり、インスパイアされたりして、自分の作風が確立していくところがある。
河野:
仮に、もし誰の影響も受けないで作られている作品があったとしたら、それは駄作だと思いますよ(笑)。
著作権法の目的に「文化の発展」というのがありますけど、他の人の表現をいっさい真似しちゃいけない、となると、かえって文化の発展を阻害してしまうんです。「似ていたら全部著作権侵害だ、パクリだ」という風にとらえてしまうと、むしろ困るわけです。
ぽな:
そうですね。他の人の作品をいっさい使えない、参考にするのすら許されないとなると、クリエイター側も困ると思います。
河野:
だから、著作権法は「創作的な表現は著作物として法律で保護しますよ、そのほかのアイディアは真似してもいいですよ」という形にして、バランスを取っているんです。
ぽな:
必ずしも、「似ているからパクリ! 著作権侵害!」というわけではないんですね!
ぽな:
著作権侵害の被害に遭う機会って、私みたいなWebライターは比較的少ないと思うんですが、業界によってはかなりあるみたいです。
当事者のSNSが燃えるケースもあって、いつも怖いなあと思いながら見ています。しかも、これ、著作権侵害を指摘する方も怖いというか、場合によっては逆に訴えられるケースもありますよね。特に、SNSで名指ししちゃったような場合は……。
河野:
名誉毀損の関係で考えると、当然考えられるところではありますね。
ぽな:
「イラストを無断で使ってグッズにしました!」みたいなわかりやすいケースならともかく、実際には微妙なケースもあるじゃないですか。作品同士で表現が似ている・似ていない、とか。なかには偶然似ちゃったケースもあるわけで。
ただ、実際問題として、たとえばイラストレーター界隈なんかだと、被害に遭うと、被害報告や注意喚起のために告発ツイートする方は多いらしいんです。「被害に遭った」と感じる本人の気持ちと、実態にズレがあることもあるので、正直どうなんだろう?と思うことがあるんですが。
河野:
うん。ただね、SNSで発言して「自分が作者である」と主張すること自体はやっておくべきだと思うんです。理由は2つあります。まず、人から「あなたの方がパクった」と言われるリスクがありますよね。
特に相手が有名な方だったりすると発言力がありますから。ネットだと、主張しておかないと2、3年もすれば、「あの有名な人の作品だ」という既成事実ができてしまう。そうなると、あとになって、実は「私の方が先に作りました」と主張するのは難しいですよね。
ぽな:
確かに……。
河野:
そしてもうひとつは法的なリスクの問題です。たとえ本当に著作権侵害にあたる行為があったとしても、何年も放置していたとなると「作者が何年も黙認しているんだから、作品を使ってもいいという許諾があるんだろう」と、裁判所に解釈されてしまう可能性があります。特に、トラブルの当事者同士でやりとりがあったような場合は。
ぽな:
なるほど。クリエイターがSNSで発言すること自体は、のちのち自分の身を守ることにもつながるんですね。
河野:
そういうことです。問題は名誉毀損になるリスクとの関係ですが、これはクリエイターさんが発言内容にちょっと気をつければクリアできます。最大のポイントは、「自分が著作権侵害の被害にあった」「作品をパクられた」というニュアンスを出さないようにして発言することです。
ぽな:
ええっと、つまりどういうことでしょう……?
河野:
ぶっちゃけた話をすると、「著作権侵害があったかどうか」なんて最後にフタを開けるまで誰にもわからないんです。だから、あくまでも「著作権侵害が本当にあるかどうかは別として、なんか自分の作品と似てるものがある」くらいのスタンスで行動することが大事なんですよ。
ぽな:
たしかに、著作権侵害のあるなしでめっちゃ揉めてるケースもたくさんありますよね……。
河野:
最終的に、裁判で決着がつくまでわからない。にも関わらず、相手が加害者だと決めつけることになると、どうしても誹謗中傷っぽいニュアンスが出てしまいます。
ぽな:
相手が自分の作品にめちゃくちゃ似た作品を発表している場合でも?
河野:
だって、たまたま似てしまった可能性もあるじゃないですか。
ぽな:
たしかに、イラストでも同じ作家や作品が好きで、同じ資料から作品を描いて……となると、うっかり似ちゃうこともありえますね……。やられた側からするとたまったもんじゃないですけど。
河野:
著作権侵害が成立するためには、依拠性(他人の作品を参考・ベースに作ったこと)と類似性(問題の作品と具体的な表現が似ていること)という2つの要件を満たす必要があるんです。だから、たまたま似ちゃった場合は著作権侵害は成立しないんですね。
ぽな:
似ていても、パクリとは限らないんですね。それなのに最初からパクリ、って決めつけちゃうとまずいということでしょうか。
河野:
そういうことです。一方、「こういう作品があるけど、実は私もこんなものを前に書いていました。先方の作品の発表時期は○○だけど、私の作品の発表時期は○○です」とツイートするのはかまわないといえる。なぜなら、それはあくまでも事実を述べただけであって、誹謗中傷にはならないからです。
攻撃的な内容を言わなくても、効果的な発信はできるんですよ。
ぽな:
誹謗中傷にあたらない範囲で、「私は作者ですよ」アピールをしておくことが大事なんですね。
ぽな:
被害にあった後に、冷静に行動する大切さがよくわかりました。ほかに、先生から見て「これやっちゃダメ」「これはやってほしい」ということはありますか?
河野:
結構いらっしゃるのが、何もしないうちに相手に連絡してしまう方や、SNSで被害報告をしてしまう方ですね……。
ぽな:
うっ、確かにありがちな行動かも……!
河野:
「やばい!」と思って相手が証拠を削除したらどうするんですか?
ぽな:
それは困る! 困ります! 証拠を消されたら、侵害があったって証明できなくなっちゃう!
河野:
というわけで、まずやるべきは証拠の保全です。気づいた時点で、問題の画像やSNSのスクショを撮るなりして証拠を残す。一番いいのは紙で印刷することですけどね。
ぽな:
すると……あ、そうか! 日付が入るんですね!
河野:
そうです。パソコンで印刷すると、Webサイトの場合は何年何月何日のサイト、っていうところまで出せますよ。そうやって日付のしっかりわかるもので証拠を保全しておく。
ぽな:
さすがプロ……。他に集めなければいけない証拠ってありますか?
河野:
最低でも画像検索はかけておくといいですね。他のところで使われている可能性もありますので。
あとは自分側の証拠ですね。SNSなどに投稿したものだったら、いつどこに投稿したかわかるものを集める。ただ、最近だとInstagramのストーリーのように投稿から一定時間経つと消えちゃうものがあって、弁護士としては困っています(笑)。そういうケースは過去のデータをさかのぼって、なんとかやるしかないですね。
ぽな:
データというと、たとえばファイルのバージョン情報みたいなものでしょうか。
河野:
そうです。データの作成日や最終更新日などですね。ファイルのプロパティを見ればわかります。だから、私も依頼者さんにプロパティを確認するために「コピーではなくマスターデータを送ってください」とお願いすることがあります。
あとはメールですね。メールの日付の改ざんは難しいので、先方とメールでやりとりしていた場合は、その日付が証拠になります。
ぽな:
これらの証拠を、相手が気づかないうちにコッソリ集めるんですね。
河野:
特に相手側が持っている証拠ですよね。とにかく急いで集めないといけない。それまでは絶対に、こっちが気づいたことを相手に気づかせてはいけません!
ぽな:
証拠を全部集めてから、満を持して「なんか似てる作品がある~!」って言うのがいいと……なるほど。
ぽな:
YouTube動画などの削除申請は自分でもできますが、それはそれでリスキーですよね。最近、実際には著作権侵害ではなかったのに、そうだと信じて削除申請をしたら相手から逆に損害賠償請求を食らったという事件もありました。
河野:
微妙なケースもありますので、アクション起こすかどうか迷った時点で一度、「これ、著作権侵害になりますかね?」って弁護士に訊いてみるのもいいかもしれませんね。
ぽな:
うーん、そうですね……でも先生、一般人にとって弁護士さんに相談するってめちゃくちゃハードル高いですよ。「どうやって弁護士さんを探せばいいの?」「法律相談って何するんだ」みたいなところからスタートするクリエイターさんが大半だと思います。
たとえば、自治体で無料法律相談をやっているケースもありますが……。そういうところに行けばいいんでしょうか。
河野:
うーん……。これ、弁護士業界の人間として言うんですけど、自治体の法律相談会は、相続や離婚といった一般的なトラブルの扱いに長けた弁護士が来るところなんですね。実際に相談に来られる方も、そういったトラブルで悩まれているケースがほとんどです。つまり、自治体側も弁護士側も、著作権トラブルが来るなんて思っていないというか。
ぽな:
あらら……。となると、自分で著作権トラブルに慣れた弁護士さんを探して、直接法律事務所に相談に行った方がよさそうですね。どうやって探せばいいんでしょう。
河野:
この記事を読んでくださっているみなさんはスマホやパソコンを使っているはずですので、まずは検索エンジンで探すのが手軽かな、と思います。「著作権 弁護士」などのキーワードで検索をかけてみてはどうでしょうか。
ぽな:
弁護士を探すのも、普通にインターネットで検索をすればいいんですね。ところで、法律相談って1回あたりおいくらくらいなんでしょうか……?
河野:
だいたい、1回あたり5,000円~1万円くらいでしょうか。30分5,000円を目安に、あとはかかった時間に応じて、というイメージでいらっしゃるといいと思います。
ぽな:
5,000円で不安が解消できるならアリですよね。ちなみに当日の持ち物ってどうすればいいんでしょうか?
河野:
そうですね。たとえばスクショだとか、ご自身で集めた証拠があると思いますので、そちらを持参していただけるとスムーズですよ。
ぽな:
相談してみて、「これは著作権侵害だ。法的措置を取りたい」となった場合はどうすればいいでしょうか。
河野:
これはケースバイケースですね。必ずしも裁判しなくちゃいけない、というわけではないんですよ。
「問題となった画像などをただ削除してもらえばいい」という場合は、内容証明を送って終わり、ということも結構多いです。ただ、相手が匿名だった場合は、発信者情報開示請求をしなければいけないこともあるので、ちょっとややこしいですね。
ぽな:
なるほど。損害賠償を求めて徹底的に裁判などで戦う場合はどうでしょうか? 費用面の負担が気になる方も多いと思うんですけど、ぶっちゃけ収支って……?
河野:
相手が法人だったり、ガッポリ儲けていたりする場合は、弁護士費用を差し引いても黒字になる場合が多い印象ですね。
ぽな:
ええと、とするとあの、相手が個人で特に商売もしていない場合は……?
河野:
正直、黒字にするのは厳しいと思いますよ。というのも、実際に請求できる金額って、相手がどれだけ儲けたかによるところも大きいんですよ。相手が不当に得た利益を吐き出させる、というのが基本的な考え方なので。
ぽな:
そっか、じゃあ相手が海賊版のグッズをがんがん作って、がんがん売ってくれた方が最終的にがっつり回収できるということになるんですね……。
河野:
「自分の収支」という点だけで考えれば、そういうことになるでしょうね。
ぽな:
では、精神的な損害についてはどうでしょうか。大切な作品をパクられたらつらいので、私なら慰謝料は1000万円ぐらい欲しいんですが。
河野:
うーん、相場がありますから、1000万円はさすがに難しいですね。10万円くらいかな……。
ぽな:
じゅ、じゅうまんえん……! ちょっ、泣いてもいいですか……。
今回はトラブルに遭った後の話を中心にしてきましたが、巻き込まれた後の心労や金銭的な負担を考えると、被害に遭わないに越したことはありません。
被害を未然に防ぐための予防策としては、河野先生曰く、「著作権侵害されたら法的措置を取る」「著作権フリーではない」といった内容を、みんなの目に触れる場所に表示しておくことが大切なのではないか、とのことでした。
みなさんが安心して仕事に打ち込めるようにと心から祈りつつ、本稿の筆を置こうと思います。
(執筆:ぽな 編集:少年B 協力:河野冬樹弁護士 イラスト:はこしろ)
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